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こどもの脳発達を理解する

 生まれて間もない未熟な脳は、外界からの様々な刺激を受け、やがて多彩な機能を発揮する成熟した脳へと変化します。この過程で神経細胞同士のつなぎ目(シナプス)はダイナミックに変化し、成熟したネットワークを生み出します。これまでの研究から、特定の領域内の局所回路については分子機構の解明が進み、局所シナプスの形成や維持を担うシナプス構成分子の役割が明らかされてきました(Ito-Ishida, JNS, 2008; Ito-Ishida, Neuron 2012)。しかし、遠く離れた複数の脳領域を含むより大きなネットワークが、発達過程で構築されるメカニズムについては、ほとんど明らかにされていません。そこで当チームでは、発達期のマウスに対して分子細胞生物学やウイルストレーシングを利用し、多様な神経細胞の一つ一つと、詳細なシナプス構造を観察することで、より大きなネットワークが発達に伴いどのように変化するのか明らかにしたいと考えています。また、マクロ顕微鏡、2光子顕微鏡によるカルシウムイメージングを新たに導入し、機能的なネットワークがどのように成熟していくのかについても、解析を進めていきます。その上で、脳の成熟過程における小脳の役割にも注目しています。小脳は運動制御だけでなく、より複雑な認知機能にも関わり、自閉スペクトラム症を代表とする発達障害にも深く関係するといわれています(石田「生体の科学」2021)。そこで、小脳と大脳皮質を結ぶ大きなネットワーク構造の発達制御機構を明らかにすることも重要だと考えています。

 脳の発達を支える分子の変化は、場合によっては重篤な小児神経疾患につながります。また、近年は自閉スペクトラム症の遺伝学的解析が進み、1000以上の遺伝子が関与することが示されています。しかし、関連分子の同定が進む中で、発達障害に見られる特徴的な症状が、脳内のどのようなメカニズムで引き起こされるかについては、多くが未解明です。

 当ラボでは、発達障害の複雑な病態を理解するためのの第ー歩として、原因と疾患の関係が明確である単一遺伝子疾患のRett症候群に焦点を当て、研究を進めています。これまでの研究から、抑制性神経細胞のサブタイプが病態に果たす役割を見出し(Ito-Ishida, Neuron, 2015)、原因遺伝子であるMeCP2のクロマチンにおける機能を明らかにしました(Ito-Ishida, Nature Neuro, 2018; JNS, 2020)。しかし、Rett症候群にみられる神経症状が、神経回路のどのような異常によって起こるのかについては、あまりよく分かっていません。新チームでは、正常な脳発達の研究を通じて得られた知見と、子と行動を繋ぐ多角的な実験手法を応用し、この問題に取り組んでいます。マウスの認知行動を全自動・無作為で定量できる解析方法として、独自に開発したオペラント行動解析装置も導入しました。また、CBSの優れた研究環境を生かし、コラボレーションを通じ学際的なプロジェクトを推進していきます。

神経発達障害を理解し、治療開発に貢献する

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